本当の正義
E住職は今朝もお堂でひとり。 ムニャムニャナムナムニャ〜
もうニ十年のあいだ、毎朝欠かしたことはない。
「お経の功徳にたてまつるぅ〜」
お経をあげる前には必ず付け加える。
「T国発生のケロリウイルスが我がN国に蔓延し、非常に困惑しておりまするぅ」
そしてこれも絶対付け加えるのを忘れない。
「K国のN国に対する言われなき敵対行為及び暴言ムニャムニャ〜」
そう、E住職は隣国が大嫌い。
「ナムキクチミツヒデコウソンレ〜」チーン
思い起こせばニ十年前。先代のG住職が亡くなってからの忙しさといったら、それはそれは大変なものだった。
数年経って、ようやくひとりぼっちになったことに気づいた。G住職はE住職の奥さんだったのだ。
ひとりぼっちのE住職の楽しみは、憎き隣国の悪口を言うことだった。
「T国なんか滅んでしまえばいいんじゃムニャムニャ」
「K国の美味いものなんかありゃぁせんワイ」
今朝もE住職が、隣国の悪口を言っていたちょうどその頃、
隣のK国では大人気男性アイドルグループのY青年が、仲間達に相談していた。
「オレ、子供が産まれるかもしれないんだ」
「マジかよ!」
「で、相手は誰だよ?」
「歳はいくつだよ?」
「相手はオレと同じ二十歳。T国出身のHちゃんだよ。。。。」
「え? 相手も今人気絶頂のスーパーアイドルかよ」
「お互いまずいんじゃないの?」
「二人とも、熱狂的過ぎるファンが多いしさ... ヤバいよ」
「うん、そこで相談なんだ」
その数カ月後、Y青年は新妻のHと、産まれたばかりの赤ん坊と一緒にいた。
「N国に来て正解だったな。ここならオレたちの知名度はほぼゼロだし」
「まさかこんなに素敵なお家で、子育てができるなんて、わたし達しあわせよね?」
「なんでも、つい最近までお寺だったみたいだな。ここなんかも、部屋がお堂っぽいもの」
「あらっ、赤ん坊が笑ったわよ」
「目元なんてオマエそっくりじゃないか」
赤ん坊は笑いながら、そっと部屋の奥に目を移した。
星新一先生オマージュ
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